万博のアクセシビリティにおけるLGBTQ+当事者委員としての関わり

新設Cチーム企画(アクセシビリティチーム)

 新設Cチーム企画は2022年から、近畿運輸局や大阪万博の当事者委員としてオールジェンダートイレ設置や包括的接遇などの推進・啓発に携わっています。万博での当事者参画の取り組みで行ったことと成果を紹介します。

新設Cチーム企画の万博に対するスタンス

 万博に当事者参画の委員として関わっている多くの障害当事者委員の方々と同様に、新設Cチーム企画は、万博自体の開催を支持していません。
 しかし、万博はその後の社会のまちづくりに少なからず影響を与えるものです。従って、万博自体には賛成できないが、万博後の社会のアクセシビリティを少しでも良いものにできるのならと思い、LGBTQ+の当事者委員を引き受けることを決めました。

(1)交通アクセスに関するユニバーサルデザインガイドライン検討会

 ガイドラインの目的の文言にあった「性別」を「SOGIESC」に変更することを要望し、ガイドラインの文言に加えられた。また、LGBTQ+のニーズやオールジェンダートイレの必要性について発言し、交通アクセスに関する ユニバーサルデザインガイドラインに反映された。参照:交通アクセスの検討状況

  • 「本ガイドラインは、国・地域、文化、人種、SOGIESC(※1)、世代、障がいの有無に関わらず…」(P1)
  • 2. ガイドラインの考え方 の中で「様々なニーズにより恩恵を受ける人」としてLGBTQが明記。(P6-7)
  • 3-4-3. 施設・設備(1)トイレ「・車いす使用者便房以外にオールジェンダートイレを設ける。」(P133)

参照:交通アクセスの検討状況
  交通アクセスに関する ユニバーサルデザインガイドライン

(2)大阪ヘルスケアパビリオンユニバーサルデザイン検討会

「ミライのトイレ」をテーマに様々な当事者によるグループワークに参加し、設計時にオールジェンダートイレを主流とすることを要望した。展示等に関しても性別の選択肢の配慮、ノンバイナリーな表現、多様な家族を前提とすることを要望した。その結果、半数以上の便房がオールジェンダートイレという画期的なトイレのレイアウトとなった。

参照:ユニバーサルデザインの取組み
   みんなでトイレプラン作成チャレンジ
  「LGBTQ+とまちづくり④大阪パビリオン 編」ウエキチch.

(3)日本館におけるユニバーサルデザイン意見交換会

トイレのレイアウト設計の段階から「未来の社会を模索する万博として、新しい試みがなされるべきである」という意見を表明し、男女分け空間のない、オールジェンダートイレの設計を要望した。その結果、4箇所のトイレの内、1箇所が男女のエリア分けのない全個室タイプの設計となった。

(4)交通事業者のバリアフリーソフト対策検討会

「交通事業者向けバリアフリーサポートBOOK」の制作

LGBTQ+に対する偏見や誤解が多いことから、各交通機関での嫌な経験が多いことを指摘し、LGBTQ+についての章立てを要望した。また、当事者へのヒアリングとアンケート調査に協力した。当会の調査(LGBTQ+と交通機関に関するアンケート結果報告(2022))をもとに、LGBTQ+とSOGIESCについての説明、「LGBTQ+の困りごと」と「接遇時に気を付けて欲しい点」について当会がまとめたものが、4ページのコラムとして掲載された。

参照:交通事業者向けバリアフリーサポートBOOK
  「LGBTQ+とまちづくり⑤サポートBOOK編」ウエキチch.

(5)夢洲駅及び弁天町駅のアクセシビリティガイドラインに関連する意見交換会

夢洲駅構内のトイレレイアウトに関して、従来の男女別トイレとオールジェンダートイレの割合を反転させ、オールジェンダートイレが半数以上を占めるような画期的なトイレのレイアウトを要望した。要望を受け、バリアフリートイレが6箇所の設計となった。これは万博後も確実に残る万博の良い遺産と言える。

動画:関西の鉄道ではじめてのオールジェンダートイレ

(6)ユニバーサルサービス検討会

 接遇については、万博のスタッフ・ボランティアに対するeラーニング研修においてLGBTQ+や性の多様性に関する正しい知識の習得の必要性を示した。そしてそれを接遇に反映するための研修内容として、当会が制作した教材やジェンダーについて考える動画を資料提供を行った。また、eラーニング内でLGBTQ+についての講義が15分という説明に対し、基礎知識をしっかりと学んだ上で、LGBTQ+も心地よく過ごせるような接遇をするための研修の拡充を求めた。現場研修については、LGBTQ+当事者の話を直接聞く時間や、多様な家族やセクシュアリティを想定した対応、トイレでのトラブルに関するロールプレイを提案した。
 また、接遇研修の内容が、万博の方針やガイドラインに準拠した内容になっているか、そしてこれまでの各検討会の議論を踏まえた内容になっているかを研修委託団体・企業に確認するよう博覧会協会に要望した。接遇の場面での必要事項をまとめた「来場者にLGBTQ+の人々もいることを前提にした、包括的な対応と注意点」を作成し研修団体に引継ぎを行った。

参考:万博のアクセシビリティガイドライン

 万博では、下記にあげるようなアクセシビリティに関するガイドラインが作成されており、それに基づいて運営されているため、スタッフ・ボランティアにもその概要を説明し、それを理解した上で行動してもらう必要があります。

ユニバーサルサービスガイドライン(展示・催事/演出・飲食/物販)
交通アクセスに関する ユニバーサルデザインガイドライン
多言語対応ガイドライン
施設整備に関する ユニバーサルデザインガイドライン 」など。

1-1.万博のユニバーサルサービスガイドラインの位置づけ

 万博が掲げるユニバーサルサービスガイドラインの基本的な考え方について、「ユニバーサルサービスガイドライン(展示・催事/演出・飲食/物販)」P2から下記を抜粋します。

「大阪 関西万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマと「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインコンセプトを踏まえ、国・地域、文化、人種、SOGIESC (※1)、世代、障がいの有無等に関わらず個々の価値観や個性を尊重し、大阪 関西万博を訪れる世界中の人々が利用しやすいユニバーサルデザインの実現をめざしています。
 そのため、開催者である公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会は、参加者の国や企業等へ 博覧会会場の運営サービスに関する共通指標を示し、来場者にとって楽しめる万博運営を目的として、「ユニバーサルサービスガイドライン」 (以下「US ガイドライン」という。)を作成いたしました。

 今回のUS ガイドラインの策定に当たっては、先に発出された「施設整備に関するユニバーサル デザインガイドライン 改定版」 (以下「UD ガイドライン」という。)を前提に来場者がより一 層利用しやすい博覧会会場となるよう、国際パラリンピック委員会 (International Paralympic Committee) のアクセシビリティガイドが基本原則として掲げる「公平」「尊厳」「機能性」の3つを踏まえて、身体障がい(聴覚、視覚、肢体不自由等)、知的障がい、 精神障がい、発達障がい、LGBTQ等の皆様が検討に参画し、当事者の視点を反映する内容としました。USガイドラインでは、障がいの有無やSOGIESC等に関わらず、高齢者から子どもまですべての皆様が楽しめることを目標に掲げ、必要なサポートを行い、相互のコミュニケーションにより、共に支え合う共生社会をめざしたサービスの提供を実現いたします。

 大阪・関西万博におけるユニバーサルデザインの実現に向けて、開催者、パビリオンや営業施設等万博運営に携わるすべての従事者は、US ガイドラインに従い来場者サービス全般、 展示、催事・演出、飲食・物販の運用を行います。さらに、大阪 関西万博を契機として、 万博でのユニバーサルサービスが後世の人々の手で発展 更新され、インクルーシブ社会に沿った誰もが楽しめるサー ビスの運用が各方面でされていくことを期待します。」

1-2.ユニバーサルサービスガイドラインの基本的な考え方

 接遇場面でベースとなる考え方をP3から抜粋します。

3) 本ガイドラインの背景となるアクセシビリティとインクルージョンの基本原則
本ガイドラインの背景にある基本原則は、IPC ガイドが基本原則として掲げる「公平」、「尊厳」「機能性」の3つである。
「公平」すべての人々が、個人の身体的・機能的な状態に関係なく、同じ水準のサービスを受けられることを保障する。
 適切な博覧会会場の設計、運営に関わる諸計画の整備、トレーニングを受けたスタッ フ・ボランティア等により、来場者はすべて同じ水準の体験を共有し、同等のレベル でプライバシーが守られ、安全が確保される。
「尊厳」博覧会の施設やサービスを利用するすべての人々を尊重し、その個人の尊厳を損なわ ない方法で、博覧会を運営する。
 会場の設計と博覧会運営に関わる諸計画においては、来場者が自分のペースと自分に 合った多様な方法を選択できるように準備する。「機能性」博覧会時の会場内の施設やサービスは、障がいのある人を含めたすべてのステークホ ルダーのニーズを満たすことを保障する。