男性小便器の間仕切り導入の重要性について

恥ずかしさを我慢しなくていい社会は、人の尊厳を守る

新設Cチーム企画では、オールジェンダートイレの導入や普及を主張してきましたが、同時に、男性小便器の間仕切り導入についても、重要な課題と位置づけ、設置を呼び掛けていきたいと思います。なぜなら、男性小便器の間仕切り導入は、誰もが安心して排泄できる環境をつくるための基盤整備であり、恥ずかしさを我慢しなくていい社会は、人の尊厳を守ると考えるからです。その理由を下記に説明します。

新設Cチーム企画の調査結果

新設Cチーム企画が行った調査(2025年・有効回答数:131人)で、「男性小便器の間に間仕切りがあった方がいいと思いますか?(補足説明)小学校では、プライベートゾーンの学習をしていますが、その内容に反し、男子トイレでは性器や排せつ状況が他人に見える状態です。」という質問に対し、「あった方がいい」と回答した割合は68%でした。その理由として「見られるのが不快」「覗き防止に必要」「プライバシーの保護」「嫌がらせを受けた経験があるため」と言った内容が自由記述で多数見られました。
実際の男子トイレの様子としては、便器にギリギリまで近づいて排尿する人、見せないように工夫する人、隣に人がいない便器を好んで使う人など、少なくない人が間仕切りがある方が安心するのではないかと見受けられます。また、サイズや外観についての世間の風潮のために、泌尿器科医が警鐘を鳴らしていますが不必要な包茎手術が多く行われていること、他者からの視線に懸念を抱えさせられている人がいる中、間仕切りの設置は、心理的な負担を軽減することになるのは、容易に想像できます。アンケートでも包皮についての悩みが複数言及されていました。

プライベートゾーン、プライバシーの観点

最近では多くの小学校で低学年の間に、プライベートゾーンについての学習が広がっています。プライベートゾーンとは下着で隠れる場所のことで、人に見せたり、触らせたりせず、自分だけの身体の部位のことです。逆に人のプライベートゾーンは見たり、触ったりすることはしてはいけないと学びます。しかし教室から出て男子トイレに行くと学校の設計上、プライバシーが守られてないのです。男性の身体は大事にされていないのだと感じるかもしれません。当会のアンケートには「男性同士でも、不必要に性器や排泄物を見たり見せる事に抵抗がある」という至極真っ当な回答もあり、性別に関わらずそれぞれのプライバシーが守られる設計にすることが望ましいです。
また、間仕切りを設置することで、覗き込みなどのマナー違反や不用意な接触やトラブル、からかい・性的ないたずらの抑止になります。学校現場では、トイレが「いじり」「からかい」「暴力」の温床になりやすいことは周知の事実です。排泄という誰もが避けられない生理現象を対処する場所であり、遊ぶところでも、けんかをするところでも、ふざけるところでもなく、単に排泄の場であるべきです。ただでさえ、人前でプライベートゾーンを晒けださなければならず、排泄の姿を他人に見られなければならない状況なのですから、より一層心理的安全性の確保が重要であることは言うまでもありません。(理想的には、小便器も個室化が望ましいと当会は考えています。)

排尿我慢の健康被害・医療的な観点

先述のアンケート結果には「見られるとおしっこが途中で止まってしまい、出なくなることもあった」というように、間仕切りがないことで誘発されるマナー違反から、心身への影響を受けている人もいることがわかりました。
「Shy bladder(恥ずかしがり膀胱)」という言葉は、英語圏では一般的に認知されている言葉で、“I have a shy bladder.”(人がいるとトイレで尿が出にくいんだ) は英語圏では説明不要で意味が通じる表現だそうです。この状態は、医学的正式名称としてはParuresis(パリュレシス)と名づけられ、男性に多いとされています。治療対象として認知されており、海外の研究結果では人口の2.8% ~ 16.4% の間、男性のみのサンプルでは 32% に達する可能性があることが示唆されています。また、患者会や国際排尿恐怖症協会など国際的な支援も展開されています。
間仕切りがないという状況ゆえに、プライバシー不安により排尿を我慢する人が一定数おり、 膀胱炎・前立腺疾患・頻尿悪化などにつながる可能性がある健康問題でもあるのです。したがって、「男性の排尿のしづらさ」は社会的に語られる傾向にあり、そこからトイレ設計・配慮の議論につながっています。

ユニバーサルデザインの観点

近年、一部の男性小便器に手すりがついているものが見られるようになってきました。これは利用者の中にも多様な事情があり、安全に小便器を使えるようにということが配慮されてのことだと思います。高齢者の場合、ふらつき・手元が見えにくい、障害・病気の影響で震え、排尿時間が長い、服薬の影響、体型・身体的特徴への不安など、様々な状態が考えられます。間仕切りもデザインによっては、こうした多様なニーズに対応することも可能なはずです。
しかし、バリアフリーという考え方は少数者のためだけに行うことではなく、誰もが不便なく生活できるよう、物理的、制度的、心理的な障壁を取り除くという考え方です。冒頭の調査で68%が間仕切りがあった方がいいと回答しているように、トイレの利用者満足度・滞在快適性向上という意味では「快適性のユニバーサルデザイン」として位置づけられるのではないでしょうか。ただ、日本では、男性小便器の利用者がプライバシーが守られていない不快感を語りにくい状況にあり、それ自体が「バリア」と言っても過言ではないでしょう。

他国の建築標準の観点

欧米では既に条例・設計ガイドラインにおいて
●個別間仕切り
●半個室型小便器
●男女共用+完全個室
が公共施設で一般化しつつあります。また、ISO(国際標準)や各国の公共建築ガイドラインでは「視線遮断」や「心理的快適性」が評価項目に入ってきています。日本においても、こうした観点を取り入れて国際標準に近づく必要があります。

① UK Paruresis Trust
Public Toilet Design Guidelines(英国)
英国のParuresis(いわゆるShy Bladder)支援団体が示す公共トイレ設計指針では、他者の視線や存在を意識させない構造が、排尿時の心理的負担を軽減するとされており、便器配置や視線遮断の工夫が、安心して利用できる環境づくりに重要であると指摘されています。
出典:UK Paruresis Trust:Public Toilet Design Guidelines

② IAPMO
Toilet Room Design Manual(All-Gender, Health, Safety, Privacy and Security)
国際的な配管・建築基準団体であるIAPMOのトイレ設計マニュアルでは、公共トイレにおいてプライバシーの確保と心理的快適性は、健康・安全と並ぶ重要な設計要素とされており、視線を遮る構造や、利用者が安心して使用できる空間構成が推奨されています。
出典:IAPMO: Toilet Room Design Manual

③ International Building Code(IBC)2021
Restroom Privacy に関する解説
国際建築基準(International Building Code)では、公共トイレの設計において、単なる設備配置にとどまらず、利用者の視覚的プライバシーや心理的安心感を確保することの重要性が強調されています。
出典:International Code Council: Significant Changes to Restroom Privacy in the 2021 IBC

Significant changes to restroom privacy in the 2021 International Building Code - ICC

An addition to Section 1210.3 (Restroom Privacy) of the 2021 International Building Code states that concerns regarding privacy within public restrooms have be…

このように、国際的な建築・設備設計のガイドラインにおいては、公共トイレの整備にあたり、利用者の視線への配慮や心理的快適性の確保が重要な設計要素、評価項目として位置づけられています。これらは特定の利用者に限らず、誰もが安心して施設を利用できる環境づくりに資するものでです。
したがって、男性用小便器の間仕切り設置は、こうした国際的な設計思想に沿った取り組みであり、排尿時の視線ストレスや心理的負担を軽減することで、公共空間における安心・安全・尊厳の確保につながります。

導入と運用の現実性の観点

既存小便器への後付けパネルは、比較的低コストで導入可能であり、大規模改修を伴わないため着手しやすいと考えます。また、即時導入が難しい場合でも、新設・改修時に合わせて段階導入することを計画していくことで実現していって頂きたいです。
また、間仕切りが設置されることで、他人と近接して排尿するストレスが低下するため、排尿開始時間が短くなり、回転率が上がることも研究で示唆されています。研究では、対人距離が近いほど、排尿開始の遅延が長くなり、排尿の持続時間が短くなりました。パーソナルスペースの侵害によって、排尿開始が遅れることで所要時間が長くなり、排尿時間が短くなるため排尿が不完全となり、トイレの使用頻度が増加してしまうということです。

不必要な男らしさの観点

先に紹介した当会のアンケート結果には、「小便器で排尿することが恥ずかしかったが個室に入ると大便だとからかわれるし、がまんしてやるしかなかった」や、トイレ中の悪ふざけの影響で「安心して排尿できず、途中で止まってしまったりする」など、小便器にまつわる学校での嫌な経験を多くの人が記載していました。
「男は体力があり強いから、細かいことは気にしないから」、「がさつだから」、「繊細じゃないから」、「性的な目で見られないから」、「恥ずかしがってたら「女々しい」とからかわれるから」等々の風潮のため、間仕切りなしでの排尿を「恥ずかしい」「いやだ」「不安」などと形容することは「男らしくない」ことなのだろうと思います。インターネットの相談掲示板などを検索してみると、立ちションが辛い、恥ずかしい、不快と悩んで相談を書き込む男性や男児に対して付くコメントは「男のくせに恥ずかしがるな」「そのうち慣れるものだ」「自意識過剰」などといったものが多く、相談者の悩みに共感したり寄り添う人はあまりいませんでした。

ちなみに、学生における性的嫌がらせの調査では、女子は赤の他人からの加害がほとんどであるのに対し、男子は友達同士での加害がほとんどという結果があります。トイレでの悪ふざけで嫌な目に遭ったという男子生徒も少なくなく、プライバシーを守れない環境や、性的な嫌がらせを笑いにしたり、いじり文化が関係していると推測できます。
自分の心身を守り大事にしたり、助けを求めたり、他人をケアする事が「女々しい」と評されたりする、ある種の「男らしさ」は有害です。そうした「男らしさ」を守るために(女々しいと言われたくないために)男性が自分をケアできないとしたら、それはバリアだと思います。男性が他の男性をケアすることが、同性愛を想起させるためにできないとしたら、それはバリアだと思います。その、男性同士でケアできないシワ寄せが、女性へのケアの押し付けや抑圧、ひいてはLGBTQ差別につながっています。

最後に

男性小便器の利用しにくさについて、普段あまり話題にならないにも関わらず、当会のアンケートでは68%が間仕切りがあった方がいいと答えています。つまり、男性はそうしたことを「気にしないことを求められている」だけで、実際には恥や不安を抱える人は多いということではないでしょうか。
男らしさの有害な部分の一端を担う行為が、トイレに行くたびに実施され、強化・再生産されているとしたら、間仕切りの設置は、そのバリアを取り除き、男性が自分の心身を大事にし、周囲も大事にすることにつながる、非常に重要なスタートとなると考えます。
声に出しにくい困難を前提に設計することがバリアフリーの考え方でもあるでしょう。身体的バリアだけでなく、心理的・社会的バリアの除去も同時に進めることが、インクルーシブな街づくりには不可欠です。ひいては男性が自分の身体を大事にし、自分自身や周囲を大事にすることにつながると私たちは考えます。

■参考

新設Cチーム企画「射精・勃起に関する経験についてのアンケート(小学4年生向けの性教育教材制作のための調査)」

射精・勃起に関する経験についてのアンケート調査結果(2025)

(小学4年生向けの性教育教材制作のための調査) 新設Cチーム企画:性教育教材プロジェクトは、小学生用性教育教材「性別思い込みあるあるシリーズ」のを作成にあたり調…

基礎ゼミジェンダースタディーズ/世界思想社

Exploring paruresis (‘shy bladder syndrome’) and factors that may contribute to it: a cross-sectional UK survey study(2024)

Paruresis: “Shy bladder” syndrome(2022)

Latest thinking on paruresis and parcopresis: A new distinct diagnostic entity? (2019)

Is “shy bladder syndrome” a subtype of social anxiety disorder? A survey of people with paruresis(2002)

International Paruresis Association(パリュレシス国際支援組織)

Draft Design Guidelines for Public Toilets(公衆トイレの設計ガイドライン案)